マクロ経済スライド、来年度も発動~公的年金2年連続抑制へ

公的年金の給付額を抑える「マクロ経済スライド」が2020年度に発動される見通しとなりました。老後2000万円問題をめぐり、安倍首相が「マクロ経済スライド」という言葉を連呼したため、話題となり耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。また年金制度に問題はないという文脈でも用いられた当該キーワードにはどんな意味があるのでしょうか。

年金の改定率

マクロ経済スライドとは

ズバリ、「マクロ経済スライド」とは将来の年金支給額を減額する為の制度です。

「マクロ経済スライド」と聞くと、将来の景気の動向にあわせて年金の額を調整し、年金受給額が増加するようなイメージがありますが、実態はその逆です。マクロ経済スライドを理解する為には、年金制度についても理解する必要がある為、ご説明させて頂きます。

「年金額」と「支給構造」

日本の年金制度を理解するにあたって、「年金額」と「支給構造」という2つの大きなポイントがあります。

まず「年金額」についてご説明致します。原則として、年金額は物価と賃金の変化にあわせて毎年度改定するルールとなっております。従来の年金制度においては、例えば物価と賃金が1%伸びれば、年金額も1%と増加する「物価スライド」を採用しておりました。すなわちインフレやデフレに関わらず、年金額が世代間によって不公平にならないようにする仕組みです。

一方、「マクロ経済スライド」は日本政府が2004年に採用しました。一言でいうと、物価や賃金が上昇した場合、本来はそれに対応して増加する年金給付額を自動的に抑制する為の仕組みです。先述した例と同様、物価と賃金が1%伸びたとしても、物価スライドとは違い、年金額が1%上昇することはありません。マクロ経済スライドの導入目的は、この上昇率を抑えて給付を絞ることなのです。

引き上げ額がマイナスにならない

マクロ経済スライドが実行されると、年金額が当面の間0.9%程度になると見込まれています。これまでの発動は15年度と19年度の2回のみですが、日本銀行が採用している2%の物価目標(インフレターゲット)を今後35年毎年達成した場合には、年金額の増加率が単年度【2.0%-0.9%=1.1%】となり,35年間では27%の実質減という非常に大きな影響をもたらします。現在日本の消費者物価指数(生鮮品を除く総合=コアCPI)は「基準年2015年=100」とした場合に、102.0となり物価目標には到底及びません。もっとも将来の物価高や賃金高が及ぼす年金額の減額には注意する必要があるのではないかと考えます。

 

次に「支給構造」についてご説明致します。

日本政府がマクロ経済スライドを採用する直接的な原因となったものです。公的年金は現役世代が高齢者に「仕送りする」方式をとっています。現在の日本においては少子高齢化の波が徐々に及んでいます。そうすると、少子高齢化が進むことによって現役世代が支える高齢者の人数が増え、保険料負担を重くしなければ給付水準を維持できないことになっております。少子高齢化は日本にとって慢性的な問題となっております。支給構造に大きな変化がない以上、日本政府は「マクロ経済スライド」を採用するしかなかったのではないでしょうか。

2019年は年金額が抑制された

2019年金額が抑えられた

「マクロ経済スライド」によって、将来の年金額は増額するどころか、減額することが十二分に予測されます。年金額はもちろん、支給年齢も65歳から延期されることも考えられるでしょう。それくらい日本の年金制度というのは、脆弱で乏しいものです。

老後破産することなく、「ゆとりある老後」を過ごす為に、自らが主体となって資産形成していくことが求められる「時代」なのです。

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