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社会保険料負担は近く限界に達する
今回は週刊エコノミスト7/9号に掲載された社会保険料の世代間不公平負担についての記事をご紹介します。
2040年に向けた社会保障のあり方が政府内で検討されている。予防・健康づくりを通じた健康寿命の延伸やAI(人工知能)・ICT(情報通信技術)を活用したサービス提供の効率化などが議論されているが、そもそも日本の社会保障制度は将来的に安泰なのだろうか。そうでなければ、現在の議論は徒労に終わりかねない。
そこで、負担能力の観点から社会保障制度の持続可能性を検討してみた。結論を先取りすると、日本の保険料は中長期的に増加を続け、近い将来、負担が限界に達する可能性が高い。以下では、推計結果を紹介するとともに、制度の持続可能性確保に向けて必要な視点を提示する。
保険料は4倍超に
推計するのは①夫婦とも75歳の高齢者世帯、
➁組合管掌健康保険に加入する現役サラリーマンーの2100年度までの保険料負担である具体的には、高齢者世帯は後期高齢者医療制度と介護保険制度の保険料、現役世代は医療と介護、年金の保険料率である。医療と介護の1人当たりの費用の伸び率は、それぞれ年2.5%、年1.9%として、名目賃金は2024年以降年2.0%、消費者物価は11年度以降年1.1%で上昇するとした。まず高齢者世帯についてみると、夫婦二人分の医療と介護の保険料負担は、18年度の29万円から50年度には96万円、2100年度には379万円に達する。。仮に、この世帯の年収が年金のみ、具体的には夫婦の基礎年金と夫の厚生年金とすると、マクロ経済スライド発動の下で50年度まで伸び悩んだ後、調整終了とともに増勢が強まり、2100年度には889万円まで増加する収入に対する保険料の割合は、18年度の10%から2100年度には42%に達することになるが、残りの6割弱で世帯が生活できるか。はなはだ疑問である。
ちなみに、14年度の年金受給世帯の平均消費支出は年288万円であり、これを2100年度まで消費者物価上昇率で先延ばしすると740万円になる。生活を維持するには、消費支出を約7割の水準に引き下げる必要がある{(889万円―376万円)÷740万円=約69%}。
一方、現役世代サラリーマンの保険料率(企業負担分を含め)についてみると、年金は17年9月以降18.3%で据え置かれていることが決まっているが、医療と介護は年々上昇する。医療と介護、年金のトータルの保険料率は、18年度28%から50年には37%、2100年度には41%と4割を超える見通しである。現役世代では、生活費以外にも教育費をはじめ子育てにかかる支出があることを踏まえると、このようなこのような保険料負担は果たして可能であろうか。
さらに、問題視すべきはここでの前提が実現しなかった場合のリスクである。例えば、名目賃金が年2.0%ではなく1.6%の成長にとどまった場合、現役世代の保険料は率は2100年度41%では収まらず、50%に達する。また高齢者世帯についても、マクロ経済スライドによる調整が続く場合、2100年度の年金は539万円と、保険料が全収入の7割を占めることになる。このように名目賃金の前提が変わるだけで保険料負担が大きく変動する不安定な制度では、国民生活の安心・安全を守ることは期待薄と言えよう。
以上を踏まえて、社会保障制度の持続可能性確保に向けて必要な視点を以下に提示する。まず一つは、給付内容のゼロベース見直しである。高齢化の下で給付費の増加は不可避ではあるが、保険料の負担能力を維持してゆくためには、保険でカバーすべきサービスか否かを再検討し、必要性の薄い、あるいは制度の趣旨にそぐわないものは大胆に削減することが求められる。
例えば、介護では、要支援者に対する予防や軽度者に対する生活援助など、厳密には介護とはいえないサービスの妥当性や、要介護認定の在り方を再検討することが挙げられる。また、医療については、生命にかかわる問題ですので、大胆な給付カットは難しいが、例えば、いつでもどこでも医療を受けることのできるフリーアクセスは維持されるべくであろうか。国民のニーズだけではなく費用対効果の観点からも。再検討することが求められよう。
「軟弱地盤の老朽ビル」
もうひとつはエージレス(全世代)という視点である。
現在、政府は全世代型社会保障制度を目指して、子育てや教育関連の給付拡大を進めている。もっとも、医療では自己負担が現役世代の3割に対して75歳以上は原則1割であり、介護では原則65歳以上が給付対象であるなど、高齢者を優遇する色調が強い面は否定できない。それでなくとも負担の世代間格差が指摘されるなか、制度に対する現役世代の納得を得てゆくためにも、医療と介護についても年齢に関係なく、負担能力に応じて費用を拠出し、必要度に応じてサービスを受ける仕組みにすべきではなかろうか。
最後に私見では、日本の社会保障制度は、建物に例えると軟弱な地盤の上に建っている老朽ビルである。100年安心な建物として今後も利用していくためには、耐震工事やリフォームなどの部分補修では不十分であり、基礎工事からやり直す必要がある。健康寿命の延伸やAI・ICI化の議論も重要ではあるが、政府に対しては、制度が抱える構造問題(世代間で給付と負担の条件が違う事)への正面からの取り組み