社会保障 増税頼み脱却

令和の日本は少子高齢化が一段と進むことが明白になっている。高齢者を支える現役世代の負担はどんどん重くなる。経済や社会の活力が損なわれかねないのだ。
今年は、消費税の税率が10%に引き上げられる。増税後の負担と給付のあり方をどう描くか。足りないお金を増税で賄うだけでなく、福祉の支え手を増やし、医療・介護を飛躍的に効率化するイノベーション(革新)が要るだろう。

65歳以上の高齢者人口はピークを迎える2040年ごろに4千万人近くになる。日本人のほぼ3人に1人を占める。社会保障給付費は平成18年度の1.6倍の190兆円に達する。

日本の年金や医療、介護は現役世代のお金で高齢世代への給付を支える「仕送り型」が基本だ。現状のままだと現役の負担はどんどん重くなる。今は18~64歳の現役世代2.1人で65歳以上の1人を支えている計算だが、令和10年度には現役1.5人で1人の高齢者を支えるほぼ「肩車」のような状態になる。これでは現役世代が負担におしつぶされてしまう。

考え得る対策の一つは消費税率を一段と引き上げていくことだ。増え続ける費用を現役世代の保険料で賄うのではなく、高齢者も含んだ社会全体で広く薄く負担する。消費増税の収入を社会保障財源にすれば保険料のアップを少しでも抑えることができるのだ。

ただ増税だけではこの少子高齢化は乗り越えられそうにない。日本の財政健全化に必要な消費税率は26%との試算もあり、負担が「薄く広く」とはいっても、税率がさらに上がれば、子育て世代など現役世代の負担はさらに重くなっていく。

「社会の構造に手をつけなければ、いくらお金の供給を増やしても焼け石に水だ」(経済産業省幹部)。政府内にはこんな声が出てきている。

例えば、支える側と支えられる側を年齢で線引きするのをやめることだ。65歳を超えても元気で働く人が増えれば、支える必要がある「弱者」は減り、その代わりに社会保障の支え手が増える。

もう一つの対策はイノベーションで医療や介護を飛躍的に効率化することだ。

人工知能(AI)の活用で医療現場の光景は大きく変わる予感だ。すでにディープラーニング(深層学習)の技術でコンピューター断層撮影装置(CT)などの画像データから病気を判定することも可能になっている。

患者の遺伝子データを入力すると、AIが学習した世界中の医学論文の中から、その症例に関係する論文をすぐに探し出すといった活用が今後は広がるとみられる。医師の負担が軽減されるだけでなく、患者もより良い治療が平等に受けられ、早期の退院などにつながる。

今の医師は診療行為以外の事務作業にもかなりの時間を割かなければならない。定型業務を自動化するロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)の導入が広がれば、診療に専念できるようになるかもしれない。

人手不足が深刻な介護現場もハイテクに期待がかかる。ウエアラブル端末やセンサーで要介護者の体温や排せつのタイミングを把握するなどの取り組みが始まっている。

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