年金開始年齢75歳も選択肢 毎月の受取額2倍、厚労省検討

元気な高齢者 社会保障を支える側に

厚生労働省は公的年金の受給開始年齢を75歳までの繰り下げを検討しています。

75歳まで繰り下げた場合、毎月の年金受給額は65歳開始に比べて2倍程度とする方向です。

今は70歳開始が上限ですが、一段と高齢になってから年金をもらう選択肢を増やすことで働く高齢者を増やす呼び水にし、元気な高齢者に社会保障を支える側に回ってもらうのが狙いです。

現在の公的年金と改正案

公的年金を受け取り始める年齢は、現在60~70歳の範囲で加入者が選ぶことができます。

政府は2018年2月に閣議決定した「高齢社会対策大綱」で70歳超への繰り下げを認めることを検討する方針を打ち出しており、受給開始を何歳まで認めるかが焦点になっていました。

2019年は公的年金制度の持続性を確認する5年に1度の財政検証の年にあたり、厚労省は今夏までにまとめる検証結果を踏まえ、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)で受給開始年齢を75歳まで繰り下げる案を軸に議論するとしています。

2020年中に関連法改正案の国会提出を目指します。

公的年金は国民年金(基礎年金)と厚生年金の2層式になっていますが、両制度とも70歳までの繰り下げ受給を可能にしたのは30年以上前のことです。この間、平均寿命は男女ともに6歳程度延び、元気に暮らすことができる「健康寿命」も長くなりました。70歳を超えても元気に働く高齢者は増えています。

現在、政府は「人生100年時代」を旗印に65歳まで希望者全員の雇用を企業に義務づける「高年齢者雇用安定法」を改正し、70歳まで就業機会が確保される社会づくりを目指す方針です。

厚労省はこれに合わせて年金の受給開始時期の選択肢も広げ、70歳を超えても働き続ける高齢者を支援していきます。

 

現在は年金をもらい始める年齢を60~70歳の間の何歳にしても、加入者が平均的な寿命まで生きた場合に受け取る年金の総額が変わらないよう設計しています。

基準となる65歳よりも前倒しして受け取ると年金額は1カ月あたり0.5%ずつ減り、後ろ倒しなら同0.7%ずつ増えます。60歳で受給開始なら基準額から3割減り、70歳まで遅らせれば42%増えるという仕組みです。

厚労省の試算によると、70歳で厚生年金を受け取り始めた場合、夫婦2人のモデル世帯で年金額は月33万円となり、60歳で退職して65歳から年金をもらう場合に比べて11万円多くなります。

今回の改革では受給開始を70歳以上にする場合は増額率を70歳以下よりも引き上げ、年金額を上乗せするインセンティブをつける方向です。

例えば増額率を同0.8%にすると、75歳まで受給開始年齢を後ろ倒しした場合の年金額は基準額から1.9倍に増えます。

 

70歳以上の就労意欲高く

70歳以上で就業している人の割合は17年時点で15%ですが、日本経済新聞社が今月まとめた郵送世論調査によると、70歳を過ぎても働く意欲を持っている人は3割に上っています。高齢世代の就労意欲は今後一段と高くなっていく可能性があるのです。

ただ、実際に年金受給時期を遅らせる高齢者が増えるかどうかは不透明です。

60歳の定年後に再雇用制度がある大企業では、60歳を過ぎると50歳代に比べて賃金が半額になることも少なくないため、生活水準を維持するため、年金を受け取ることを選択せざるを得ない人が多いという問題があるのです。

今の仕組みでは受給開始年齢を65歳よりも後ろ倒しする人は1%しかおらず、むしろ前倒しする人が多いのが実態です。

こうした状況を変えるには、年齢ではなく能力に応じた賃金制度を普及させるなどして意欲と能力のある高齢者の賃金水準を引き上げることがカギを握るとされています。

 

一定の収入がある高齢者の年金が減る「在職老齢年金」

60~64歳で年金と給与の合計が月28万円を超えると、超過分の半分の年金が減額されるので、就労抑制につながっているとの指摘が根強くあります。内閣府の分析では、この制度がない場合、高齢者がフルタイムで働くことを選ぶ確率は上昇し、14万人分の押し上げ効果があるとされています。

ただ在職老齢年金を撤廃すると、総額で1兆円以上の給付が必要になるため、年金財政が悪化してしまいます。

年金制度の改革によって高齢者の就労を後押しするには、公的年金等控除の見直しなどと合わせてきめ細かい制度設計が必要になります。

 

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