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iPS 心臓・脳にも臨床
iPS細胞を実際の患者に使う臨床応用が広がりを見せている。京都大学が血液成分の血小板を難病患者に輸血する臨床研究計画が21日、厚生労働省の専門部会で了承された。目、心臓、脳でも進む。富士フイルムなども2018年度中にも臨床試験(治験)を申請する予定で、企業での取り組みも活発になってきた。日本で生まれたiPS細胞による治療が、実用化へさらなる一歩踏み出し始めた。
iPS細胞は、皮膚や血液といった細胞に特定の遺伝子などを働かせて作る。受精卵のように体のさまざまな細胞や組織に成長でき、ほぼ無限に増殖する。この特徴を生かして、病気や事故で失われた臓器の機能を取り戻す再生医療に使う研究が進んでいる。
臨床応用への先駆けとなったのが、理化学研究所などのチームの取り組みだ。2014年、iPS細胞から網膜の細胞を作り、目の難病「加齢黄斑変性」の患者に世界初めて移植した。これは、研究段階の治療法を試す「臨床研究」として実施された。
1例目は患者自身の細胞を使い、2例目からはあらかじめ備蓄しておいた他人のiPS細胞にした。患者一人ひとりに合わせるやり方は、培養や品質検査に膨大な費用と時間が必要だからだ。
iPS細胞は人為的に遺伝子を入れるため、がんになるリスクがある。移植用の細胞になり損なった不完全な細胞が混ざると、がんになりやすい。最初に目の難病が選ばれたのは、外から観察して異変を見つけられ、取り除く手術も難しくないからだ。
これまでに他人のiPS細胞を使った移植で、患者1人が網膜が腫れる合併症を起こして手術を受けた。この事例も含めて、安全上の深刻な問題は起きていない。移植した細胞を患者の免疫が異物とみなす拒絶反応の問題も、拒絶反応を起こしにくい特殊な免疫型を持つ人のiPS細胞を使うことで抑えた。この成功をきっかけに、他の臓器への応用が進んだ。
この春以降、臨床応用を目指す計画が相次いだ。5月、大阪大学のチームが計画するiPS細胞から作った心筋シートで重い心不全の患者を治療する臨床研究を国が了承した。9月に国が了承した京大チームの臨床研究計画は、出血を止める血小板をうまく作れない「血小板減少症」の患者が対象だ。
保険適用を想定した治験でも取り組みが始まった。京大病院が8月、徐々に身体が動かなくなるパーキンソン病の患者で開始。運動の指令を伝えるドーパミンという物質を出す神経の細胞をiPS細胞から作り、患者の脳に移植する。富士フイルムも18年度中にも、白血病の骨髄移植で起こる重い合併症「急性移植片対宿主病」の患者を対象とした治験を国に申請する予定だ。
これまでの臨床応用の動きはいずれも、実績のある研究ばかりだ。iPSではない別の細胞を使う形で治療を試み、成果を挙げてきた。例えば、心臓は患者自身の太ももの筋肉細胞から作製して心不全の患者に移植しており、パーキンソン病は海外で堕胎した胎児の神経細胞を使った研究例がある。
一方、加齢黄斑変性の臨床研究と違い、多くの計画でiPS細胞の免疫タイプを患者と合わせて拒絶反応を低減する戦略は採らない。免疫抑制剤で拒絶反応を抑える。
特殊な免疫タイプのiPS細胞を使っても、心臓は拒絶反応が起きてしまう。神経は拒絶反応が弱いとされる。免疫抑制剤を使うと、移植したiPS細胞が生き残りやすくなり、治療効果が高まるという理由も大きい。患者自身の細胞を使う血小板では拒絶反応が起こらず、細胞に核がないためがんにならないという安全面での利点もある。
まだ、少数の患者で安全性を確認している段階だが、やがて治療効果の検証に移っていくだろう。目の角膜や脊髄損傷は移植によって、機能を失った組織や臓器が再生する効果が高いとみられている。しかし、少ない患者では成果が出ても、多くなると効果がみられなくなったり、副作用が問題になったりすることもあるだろう、真価は未知数だ。京都大学教授の山中伸弥さんは「一般的な医療になるまで10~20年かかる」とみる。