年金繰り下げ受給 手取り額の具体的な変化

定年後、公的年金をもらい始める時期を遅らせて金額を増やす「繰り下げ受給」。

具体的には、1カ月遅らせるごとに受給額は0.7%増えていきます。年金から税金や社会保険料を差し引いた手取り額に換算するとどれくらい増えるのか、具体的に見ていきましょう。

本来、年金をもらい始めるのは65歳からですが、希望すれば66~70歳へ後ろ倒しにすることができます。既に退職している場合はしばらく無年金でしのぐ必要がありますが、本来の水準より高い年金を終身でもらえるようになります。

受給開始から何年生きれば追いつくかを計算すると、約11年11カ月になります

68歳へ繰り下げたら80歳直前、70歳へ繰り下げたら82歳直前まで生きれば受取総額の額面ベースが等しくなり、そこから更に長く生きれば生きるほど有利です。

ただし考慮すべき点があります。年金が給付される際、所得税や健康保険料・介護保険料が差し引かれるため、老後設計上は手取りベースで考えるのがより望ましいのです。

表Aは一定の条件で受給額面ごとに手取りがどうなるかを概算した結果です。

 

例えば65歳からの本来受給額面が年210万円の人について、手取りを見ると「191万円」です。差額の20万円弱が、税金・社会保険料です。仮に受給開始を5年(60カ月)遅らせた場合、まず額面は42%(0.7%×60)増の約300万円になります。この結果、手取りは表にあるように「255万円」になります。

手取り額が191万円から255万円へ34%増えるというのが、5年繰り下げたことによる実質的な効果です。額面ベースの効果(42%増)に比べるとやや控えめな印象になりますね。

損益分岐の時期は約15年と、こちらも額面ベース(11年11カ月)より先になります。

繰り下げの効果は、過大視せずに冷静に見極めたほうがよさそうです。

他の金額で試算しても同じような傾向になるのですが、これは受給額面が高くなると「税や社会保険料の負担は増えやすい」(みずほ総合研究所の堀江主席研究員)ため、起こるのです。

ただし、受給額面が70万円(手取り63万円)と少なめな場合は、状況が異なります。5年繰り下げると額面が約100万円(42%増)、手取りは92万円(46%増)となります。額面が低くても一定額の社会保険料はかかることなどから、繰り下げの効果は手取りベースのほうが大きい場合もあるのです。

年金受給の繰り下げは、1カ月単位で可能です。例えば3年(36カ月)遅らせれば、額面で25.2%増となります。自分の元の額面と想定する繰り下げ期間をもとに、表で手取りの変化を比べてみると良いでしょう。表は10万円刻みですが、額面がその中間なら手取りもその中間くらい、などとざっくり判断することはできます。社会保険料などは自治体によりやや異なるので、正確な金額は窓口に確認するのが確実です。

繰り下げを考える際に留意したい点は他にもあります。

1つは「加給年金」の扱いです。厚生年金に20年以上加入し年下の妻がいると、その妻が65歳になるまで年約39万円の年金が上乗せされることがあります。ところが厚生年金の繰り下げを選ぶと、この加給年金はもらえなくなってしまうのです。それを避けるためには基礎年金部分だけを繰り下げるという選択肢があります。加給年金は残るので、覚えておいたほうがよいでしょう。

もう1つは住民税。年金収入が比較的少ない人は、住民税が非課税になり、自治体によっては介護保険料が減免になるなど負担軽減の対象となります。

 

 

医療費の最終的な自己負担額(高額療養費)についても、70歳以上でその世帯の全員が非課税であれば、月2万4600円以下と少なくて済み、介護サービスなどを受けるときの負担が減ります。

ところが年金繰り下げを選んで受給額面が増えると、結果的に非課税の対象から外れ、これらの恩恵がなくなることがあるのです。その場合は、繰り下げはせずに本来の年齢から受け取るというのも1つの選択肢です。非課税の基準は自治体の税金窓口で確認することができます。

もっとも、図Bにある地域指定は見直しが予想されるほか、公的年金等控除額は将来、段階的に削減される可能性があり、非課税の基準は変化しやすいので注意が必要です。過度にこだわらず、繰り下げによって年金収入を一生増やせる利点と併せてご判断ください。

迷ったときは「年金は本来、長生きリスクに備える保険」という基本に立ち返って考えてみましょう。長寿化により老後期間は長くなっています(図C)。1960年生まれ(現在58歳)の男性は38%の確率で90歳まで生き、他の世代もほぼ同様です。

 

 

当面の生活資金を確保しているなら、やはり年金は繰り下げて金額を増やすほうが将来の安心につながるものです。男性より寿命が長い女性は特に「繰り下げが有利になりやすい」(社会保険労務士の小野猛氏)のです。

原則的に、年金は自分が請求しない限り給付されません。事前に繰り下げる期間を決める必要はないので、65歳以降も生活に余裕がある間は請求を先送りするのも手です。必要になったときに申請すれば、年金は増額されて給付が始まります。また、それまでの期間に受け取るはずだった金額を一括して請求することも可能です。年金額は増えませんが、一度にまとまった資金を確保することが出来る方法です。

 

 

 

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